【連載】心のスキルアップ教育(3)~「こころ日記」をつける~

「悲喜こもごも」。悲しみと喜びとを代わる代わる味わうことを言うそうです。正しくは、一人の人の心境について用いる言葉のようです。ここに味わいを感じるようになったのは、年齢のせいでしょうか。

大野裕先生の認知行動療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」の中に、「こころ日記」というプログラムがあります。毎日を「こころ」という視点から振り返るように大野先生が開発されたそうです。

【「こころ日記」の例】

月 日  良かった出来事  よくない出来事
(つらかった出来事)
 今後に生かせること  点数
(こころの温度)
 3/10  昼に友達とばったり 会って食事をした。久しぶりに話ができて楽しかった。 プリントを忘れて、先生に注意された。 ・友達との時間は自分にとって貴重だと気づいた。今度は自分から誘ってみよう。
・プリントの提出日をメモするようにしよう。
3
(-5~ +5)

私はこれが好きで「学校で使える!」と思い、ワークシートにして授業に取り入れました。日記というのは、古くから日本の学校文化に馴染んできたものですし、また、このワークであれば誰にでも簡単に取り組むことができます。実際にやってみると、これがとても好評だったのです。吹き出しは、子供たちの感想です。


これは一例ですが、思っていた以上の気づきがあったようです。この日記、実は認知行動療 法らしい仕掛けがあるのです。最初によかった出来事を書き込み、次によくなかった出来事、 つらかった出来事を書き込むのです。この点について大野先生は次のように説明されます。

「なぜ最初によかった出来事を書くかというと、よかった体験が頭に浮かぶと、次に向かっ て進んでいこうという気持ちが出てくるからです。もし、つらかった出来事や困った出来事 を最初に思い浮かべると、こころは守りの姿勢に入ってしまいます。 よくない出来事が起きたときには、問題が大きくならないようにすぐに対処しなくてはな りません。問題に対処するためには、まずその場に立ち止まり、過去を振り返って何がよく なかったのかを検証する必要があります。そうすると、どうしても後ろ向きの発想になりま す。
一方、よいことが起きると、それをさらにどう発展させればよいか、将来に向かって考え るようになります。発想が前向きになるのです。ですから“こころ日記”では、よかった出来 事をまず先に書いて、その後に良くなかったことやつらかったことを書くようにしていま す。 もちろん、私たちは、よかった出来事からもよくなかった出来事からも、将来に生かせる気 づきを得ることができます。ですから、その気づきを最後に書き込めるようになっています。

(大野裕の「こころトーク」2016/08/19)

そしてさらに、一番右の欄にはこころの温度を数値化して記入するようになっています。数値化することによって自分自身を客観的に見ることができたり、気分の変化に気づいたりすることができるのです。
やってみるとわかるのですが、良かったことを思い出すのは意識しないとなかなか難しいものです。悪いことは印象に残る。これは人間が生きていく為に身につけた必要な優先順位のようです。

「こころ日記」の視点は、日常の学校生活にも取り入れられる部分があるように思います。生活の中で意識的に良かったことに目を向けながら、次によくなかったことに目を向けていく。そしてそこで終わらずに、そこから次に続く工夫を、目の前の子供たちと一緒に考えていく。あるいは子供たち同士で話し合う機会を用意する。これが、認知行動療法の基本姿勢の一つなのだと言えます。今その場所から、一緒にその先の工夫を見出していく。その先の一歩を見つけていくのです。

学校は前向きの発想と相性がいいのです。なぜなら子どもたちは常に成長し、前に進む存在だからだと思います。うまくいってないときは、ちょっと点検してみてください。後ろ向きの発想になっていることがあります。このように、教師が情報処理のプロセスの基本的な部分を理解し、子どもたちとの関わりに取り入れていく。すると、子どもたちはぐっと変わっていくのだと思います。

「こころ日記」の使い方としては、期間を設定して「こころ日記」のホームワーク(課題)などが考えられると思います。学級・部活動でも効果があるでしょう。部活動のメンバーで共有する集団日記のような形式もよいと思います。いかがでしょうか。

専修大学付属高等学校 平澤千秋

「こころ日記」実践メモ
子どもたちは、「こころ日記」をつけることで、

  • 心を落ちつけたり、気持ちを整理したりする方法を学んでいく。
  • よかったことを拾い上げる態度を身につける。
  • つらかったことの大きさを過度に受けとめている自分に気づく。
  • 自分の生活や気分の浮き沈みを客観的に見つめ直すことができる。
  • つらいことの方に目を奪われていた自分に気づく。
  • 続けて書いていきたいという気持ちになっている。(書くといいな、と感じた生徒が多い。)

課題:次につながる工夫を見つける態度を促すこと

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