【連載】心のスキルアップ教育(1)

~学校で使える「認知行動療法」~  「こころのスキルアップ教育」

こんにちは。平澤千秋です。認知行動療法のエッセンスを取り入れた「こころのスキルアップ教育」を試行錯誤しながら授業で実践してきました。ここでは、学校で使える認知行動療法ということで「こころのスキルアップ教育」の特に大事にしたい部分を、実践例と共にご紹介させていただきたいと思っています。今回はまず、「こころのスキルアップ教育」について、その基本的な考え方をお伝えしたいと思います。

■「こころのスキルアップ教育」の目的
「こころのスキルアップ教育」とは、認知行動療法のエッセンスを活用した教育プログラムのことを言います。これは教育カウンセリングと重なる部分だと思いますが、「こころのスキルアップ教育」は治療を目的としたものではなく、予防・開発的に学校で活用することを目的としたものです。認知行動療法とは、私たちが無意識に行っているストレス対処法、問題解決の方法などを意識して取り入れて、生活の中で活かしていきましょうというものです。その人、その生徒の中にある力を活用していくものなのです。

教師が「こころのスキルアップ教育」を学んでいくと、生徒指導のバリエーションが増えていきます。それもある特定の場面や領域ではなくあらゆる場面において、教師である自分、そして生徒の力を活かしながら対応する方法が身についてくると言えます。言い換えれば、治療を目的とするものではありませんが、「こころのスキルアップ教育」を学ぶことで、教師は、認知行動療法の基本的な考え方や使い方について理解を深め、その場に応じた個別対応の方法を見出す力も、身に付けていくと言えると思います。

また、「こころのスキルアップ教育」の一番の目的は、学校の「学びの場」としての機能を維持していくことにあります。
私の経験では、授業を受けた子供たちの多くは、授業中、自分から友達に「質問」をし、友達の考えを聞こうとするようになります。また、怒りの気持ちが込み上げて来た時に、一呼吸おいてから行動することを学んでいきます。そしてその怒りの気持ちを、物を壊したり人を傷つけたりする方法ではないやり方で、相手に伝えようとする生徒がでてきます。また、試験や人間関係などの不安な気持ちが生じた時に、問題を具体的に書き出すことで、落ち着いていく生徒もいます。

しなやかな物事の捉え方や行動の起こし方を協働的に学ぶことで、子どもたちは思いやりのある行動を選択し、前向きに学校生活を送るようになっていくと言えるのです。

認知行動療法と教育
大野裕先生(認知行動療法研修開発センター理事長)は、あるご講演の終わりに、次のようなお話をされています。

夢を忘れなければ、目の前の問題は乗り越えていける。そのために「考え」や「行動」に目を向けていく。それが認知行動療法の基本的なコンセプトです。そして、どのようにして「考え」や「行動」を変えながら適切な問題対処ができるか。こういうことをお手伝いしていく(のが認知行動療法なのです)。

自分が「こうなりたい」「こうしたい」という「思い」が、「行動」や「気持ち」を動かしていく源である。これは医療であるとか教育であるとか、そういうものを乗り越えた人の「思い」(夢)の力なのでしょう。認知行動療法を学ぶということは、人を育てる教師の学びと何ら変わりのないものなのです。

その人に寄り添い、その人の力に向き合う。ただ向き合うのではなく、前に進む工夫を探し試みていく。それをその人と一緒にやっていく。これが認知行動療法なのです。

これからこのHPでは、認知行動療法の思いの部分もお伝えできるような頁を作っていけたらと思っています。
子どもたちは「こころのスキルアップ教育」の1頁を丸暗記して使うわけではありません。認知行動療法の考えを理解した子供たちは、臨機応変に実に上手に生活の中で活用していくはずです。

平澤千秋(専修大学附属高等学校教諭)

【参考文献】
しなやかなこころをはぐくむこころのスキルアップ教育の理論と実践(大修館書店)
しなやかなこころをはぐくむこころのスキルアップ教育の理論と実践(DVD付)

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