3月号 リスペクトするということ

リスペクトするということ

東京教育カウンセラー協会代表 藤川 章

中央区立泰明小学校の標準服が話題になりました。登校中の小学生の服をつまんで、「これがアルマーニか」と笑った通行客の言動も報道されました。是非はともかく、私は泰明小の校長の気持ちはわかるような気がします。児童数が減少しているため、学区外からの通学が認められている(特任校制度)小学校です。通常の学校以上にブランディング(価値あるブランドを構築するための活動)することが使命となっている学校で、銀座らしさを生かす一つのアイディアです。また、「アルマーニ」を身にまとうに値する中身を養おうという教育者としての決意でもあると感じたからです。

価値の高いものをつくるために、徹底的にこだわっていくと必然的に高額になることも理解できます。「アルマーニ」がブランドを確立するためには多くの創意工夫と努力があったはずです。ただし、教育では価値の創造に多くの金銭が不可欠と決めつけてはいけないとも思います。

それにしても、心ない通行人のつぶやきには、ブランドに対するリスペクトがないなぁと感じました。この問題一貫して、高額に対する反発が前面に出ていて、ブランドに対するリスペクトがないと感じました。

平昌オリンピックが大きな盛り上がりをもって終了しました。羽生君、紗良ちゃん、女子カーリング…、話題は尽きませんが、世界の話題をさらった一つが、女子500mスピードスケートを滑り終わった直後の、小平奈緒選手と李相花選手の抱擁です。

あの一瞬をリアルタイムでみていました。李選手が滑り終り、金メダルが確定した小平選手が、李選手を待ち構える。両手を膝につき視線を落とした李選手が小平選手に近づく。緊張しました。勝者から敗者へのいたわりの言葉、態度であったら、かえって周囲からの反発は大きいのではないかと、余計な心配をしたのです。

余計な心配でした。真摯に声かけする小平選手、その首に抱きつく李選手。この姿を見て感動しない人がいたでしょうか。「チャレッソ(頑張ったね)」という言葉と同時に「今もリスペクトしているよ」、これに対して「あなたを誇りに思う」。外野が心配するど
ころか、周囲が称えるよりもはるかな高みで相互にリスペクトし合うには、それだけの時間をかけて相手を知り合い、認め、高め合ってきた二人の関係があります。

アドラー心理学では、「リスペクト」という概念を重要視しています。部下や子どもでも尊敬しなさいと言います。リスペクトは、「re-spect」つまり「再び見る」ということです。

相手との関係について「距離を置いて、冷静な態度で接する」ことです。この場合の尊敬は、下から上を見上げるよりも、相互を尊重し合うというニュアンスのようです。

アドラーが引くエーリッヒ・フロムのリスペクトの定義は、「人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知ること。その人が、その人らしく成長発展していけるよう、気づかうこと」です。

ライバル同士、親子、上司と部下、先輩後輩、いずれの関係においてもリスペクトは、相互にとって幸いをもたらすものです。

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