【連載】心のスキルアップ教育(7)「ポートフォリオ」とどう向き合いますか

◆「ポートフォリオ」とどう向き合いますか

 いよいよ夏休みも終盤です。夏休みは、自由研究やキャンプに留学、各種大会への出場、ボランティア活動への参加など、日常とは異なる活動を子どもたちが体験する時期です。学校ではその記録として、「ポートフォリオ」の作成が始まってきています。というのも、高大接続改革に伴う新テストには、多面的・多角的評価というものが取り入れられてくるからです。その一つが「ポートフォリオ」による評価です。学校、特に高校では、今年度から急速にその取り組みが始まっています。その多くが、スマートフォンなどに入力する形で進められているようです。

「ポートフォリオ」とは、あらゆる学校内外の活動を、学びの蓄積として記録をしていくものです。ステップアップしながら、一続きの自分のストーリーを描いていこうという試みです。そこには、自ら記録を繰り返すことによって、主体的な生き方を促すという大きなねらいがあるのです。立ち止まって自分の考えや行動を振り返り、次への足がかかりをつくるための試みだと言えるでしょう。

 ところが、「大学入試で評価の一つとして扱われる」という情報が先走り、詳細はわからまま、「とにかく記録しておきなさい!」と言っている先生方も少なくないのではないでしょうか。先生たち自身が、「ポートフォリオ」を受けとめきれていないのが現状だと思います。私自身、生徒への説明にはずいぶん頭を悩ませています。

 でも、「こころのスキルアップ教育」を活用することで、より質の高い実践につなげることができるということは言えると思います。なぜなら、「ポートフォリオ」は、一つの「できごと」に対するその人の「考え」、そしてそれにもとづいてどのような行動が生み出されたかを繰り返し記録していくものです。それに対して、「こころのスキルアップ教育」は、物事の捉え方と行動の起こし方のプロセスを、授業を通じて子供たちに説明する方法をもっているからです。

◆自分のよさや可能性を見つける

 「検定試験に不合格だった」「試合に負けた」、そうした事実は変わることはありませんし、再度チャレンジしても思うような結果にならないことが多々あります。私の勤務校の野球部も、この夏、残念ながら神宮球場まで行くことができませんでした。その一方で、周囲も認めるとてもよい試合ができたとも言えると思っています。負けたことも勝ったことも財産になる。応援に駆け付けた野球部OBの活躍が、それを物語っていると感じました。

「ポートフォリオ」のねらいの一つに、「自分のよさや可能性に気づく」ということが挙げられます。既にこのHPでお話した「こころ日記」や「行動活性化」では、よい時でもそうでない時でも、そこからどのような工夫ができるかを考えていきます。日々の活動と気分の変化を丁寧に評価しながら、行動や気分に目を向けていくのです。認知行動療法のプログラムは、「自分のよさや可能性を見つける」その方法を学ぶプログラムとも言えるのです。

◆「ふりかえり」を活かして、行動計画を立てる

 そして、更に先に進むための計画を立てる際に、「こころのスキルアップ教育」の問題解決技法を活用していくことができます。
自分の問題(課題)に取り組むとき、まず「自分はダメだ」「もうダメだ」という問題解決を妨げる考え(自己評価)に目を向けて、気持ちを落ち着け問題解決に臨むこころの状態をつくります。それから何が問題なのかを具体的に絞り込んでいく手続きをするのです。そこでは、絞り込みのためのやり方や考え方を説明していきます。問題を一気に解決しようとせず、一つの問題に絞り込むことが大切だということを、具体的に学んでいくのです。そして次に、問題の解決策をブレインストーミングでたくさんたくさん並べて、その中から選択をしていきます。うまく問題に対処できないでいるときには、一つの解決策にこだわっていることが多いからです。

◆プロセスを学ぶ時代へ

ストレス対処法として知られる認知行動療法ですが、先生や生徒に「こころのスキルアップ教育」の学びがあれば、「ポートフォリオ」の取り組みは生徒の主体的な行動を促していく一手になると思います。書くことを通じて立ち止まり、自分の考えや行動を見直し、新しい行動を生み出す一手とすることができるのです。これは、認知行動療法の基本的な学びの一つでもあります。
教育は、物事の捉え方や行動の起こし方、生き方全般にわたって、結果のみではなくプロセスを問う時代に入ったのです。

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