【連載】心のスキルアップ教育(8)
どうして言えなかったんだろう
2学期は学校行事の多い時期です。私はこの時期に「こころのスキルアップ教育」〈コミュニケーションスキル〉の単元を取り入れるようにしています。学校行事はその前後の過程で、もめごとも少なくありません。そんな時に、子どもたちの役に立ったらと思うのです。
■「断れなかった。」とつぶやいた
生徒間のトラブルが起きたとき、「よくないと思ったけれど、断れなかった。」と子どもたちはつぶやきます。そのときの生徒指導、どのようにしていますか。「勇気をもって断らなかったから、こんなことになったんだよね。やっぱり嫌だと思ったら、ちゃんと断らないとだめだよね。」。先生の言葉はもっともで、後悔し落ち込む子どもたちの胸に刺さることでしょう。これも一つの指導です。でも、お灸をすえるという方法だけでなく、日ごろから子どもたちに対して、必要な場面で「ノー」と言えるように指導をしていきたいものです。もしそのような場面で、相手と自分の考えに目を向けながら、自分の素直な気持ちをしなやかに表現できるようになったら、子どもたちはより多様な場で、そのスキルを使っていけるようになるのではないでしょうか。
■「ノ―」と言えるようになるために、そう言えないときの「気分」や「考え」をさぐってみる
単元4「コミュニケーションスキル」(「こころのスキルアップ教育」)の指導案9「ノーと言えないとき」では、[「ノ―」と言えるようになるために、そう言えないときの「気分」や「考え」をさぐってみよう]というのが課題となっています。「自分の気持ちを素直に伝える方法」を学ぶ前に、ワンステップが用意されているのです。ここにしっかりと時間を割いていきます。授業は事例を使いながら進めます。
まず、春男くんが断りたいのに断れずにいるその瞬間の「考え」や「気分」をつかまえる作業をしていきます。事例を読むと、「いろいろ考えるとうまく断ることができませんでした。」とありますが、「いろいろ」ってどのような考えだったのでしょうか。また、別の「考え」はできないかどうか、指導案にある思考記録表を使ってグループで見直しをしていきます。
その時の「考え」が「断る」ことを妨げる一つの要因になっているという気づきは、子どもたちにとってはまさに目から鱗なのです。「断りたいけど断れない」という場面に遭遇したとき、自分の考えに目を向けるというやり方をここで初めて学ぶのです。
そしてその副産物として、話し合いの場からよく聞こえてくるのは、「こんなことで(関係が)切れちゃうなら、それは本当の友達じゃないんじゃない?」という言葉です。子どもたちは、友達への信頼というものに目を向け、「友達」とはどのような存在で、どのように結びついているものなのか、そこでも考えを深めていく様子が見られます。その思いがけない授業の発展の形が私はとても好きです。
さらにこの授業の後に、ショート劇(指導案11)をやることでより理解が深まります。ショート劇はハッピーエンドで終わることが条件になっています。劇の中では、「ノー」と言った翌日も、友達関係が断ち切られることなく、日常の学校生活が続いていく様子を演じます。それを互いに見合う中で自分の体験と重ね、「ノー」という行動の妨げとなる悲観的な「考え」を見直すことを学びとるでしょう。そしてようやく次の単元で、自分の気持ちを素直に伝える「方法」を学びます。
■コミュニケーションスキルを学ぶということ
コミュニケーションの授業は、「伝える方法」のみを教える授業になったり、「伝える勇気」を持つことを促す授業になったりする場合があるように思います。これらは「自分に目を向けた」コミュニケーションの学びとも言えるかもしれません。そこをもう一歩進めて、自分のことだけでなく相手にも目を向けながら、断る方法を学ぶことができたら、それは深い学びへとつながり、子どもたちの資質・能力を育てることになるのではないでしょうか。なぜなら、どのようなコミュニケーションであっても、それは常に相手を思うことから始まります。だとすれば、相手との関係性の中で学んでいく方が、いろいろなコミュニケーションの場で活かしていけるように思うのです。授業の終わりには、次のようなスライドを使うとよいまとめとなるでしょう。
mukiai.net/data/japan/こころのスキルアッププログラムより
専修大学付属高等学校 平澤千秋