『101回目のプロポーズ』のノンバーバルコミュニケーション
東京教育カウンセラー協会代表 藤川 章
30年近く前になりますが、「101回目のプロポーズ」というテレビドラマがありました。武田鉄矢さん演ずる不器用な中年男性達郎と、浅野温子さん演ずる素敵なチェリストの薫とのラブストーリーです。薫は叔母への義理で形ばかりのお見合いをしました。だから、お見合いの日に達郎は断られます。100回目のお見合いだった達郎は、それでも粘ります。最初はまったく相手にされなかった達郎が、100回目のプロポーズをしたときに、はじめて想いが薫の心に届きます。それは後のテレビドラマの語り草になる名場面でした。
『僕は死にましぇん!あなたがぁ、好きだからぁ…』ダンプカーの前に突然飛び出した達郎。その直前でダンプカーは止まります。運転手に怒鳴られますが、そんなことは意に介せず、直立不動の姿勢で薫に向かって絶叫したプロポーズでした。気持ちが高まった結果、武田さんは思わず博多弁が出てしまったのですが、迫真の演技の素晴らしさに演出家はOK出したといわれています。『僕はしにましぇん!』はその年の流行語大賞に選ばれました。
やや古くなりますが、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンに、『好意の総計』という感情や態度のコミュニケーションの研究があります。ざっくりいうと、自分の好意が相手に伝わるのに、言語が占める割合は45%、表情や態度、身振りなど非言語が占める割合は55%であるという内容です。さらに、言語:45%のうち38%は周辺言語と言われる声のトーンや口調、早さなどで、純粋な言語はわずかに7%にすぎないというのです。
命がけでダンプカーの前に飛び出した行為(=非言語)は、達郎の好意を伝える55%の力を発揮した。そして、『僕は死にましぇん!あなたがぁ、好きだからぁ…』という思い入れたっぷりのセリフは、38%の周辺言語の力を発揮したのです。「あなたが好きです。結婚してください」という言語の力はたった7%だったということになります。
SNSを使った子ども同士のトラブルが大きな話題になっています。ラインで結びついた関係で、外されたり、酷い内容を送りつけられたり、ラインを使ったいじめによって自殺も起きています。こうした事実を踏まえて、文部科学省と株式会社LINEは、子どもたちがラインを使っていじめの相談をする事業をスタートしました。昨年、試行的に実施した長野県や大津市では、従来の電話相談の約40倍の件数があったといいます。
カウンセラーは対面相談で、言語・非言語を100%使って、相手の心情を理解し、悩んでいる心に寄り添うことに心を砕きます。電話相談では、非言語55%を封じられますが、38%の周辺言語を生かしてクライエントの気持ちに共感しようとします。ラインはわずかに7%の言語だけのやりとりです。ラインだけでいじめに悩む子どもの気持ちを掴み、こちらの気持ちを伝えるのは至難の業かもしれません。
しかし、相談所や相談室に来所して大人を相手に悩みを訴えることは、子どもにとって高い高いハードルなのです。電話相談も、まず第一声を出すことに大きなためらいがあるのでしょう。それに比較すれば、ラインに文章を載せることは、子どもたちにとっては日常の行為です。99%たわいのない愚痴を聞いて終わりで良い、1%の重大な案件を、なんとか対面相談に結びつけ、行き詰まっている子どもたちを助けることができれば良い。
たった「7%」の「言語」ですが、この言語だけで多くの人々を感動させる小説家、エッセイストがいるのです。私たちもSNS全盛の時代だからこそ、言語のセンスをより磨く必要性が高いのだと思います。
東京教育カウンセラー協会代表 藤川 章