【連載】心のスキルアップ教育(5)ICTと「こころ」の相性は?

2020年に向かって、教育の変化をどのように掴み取ったらよいかと保護者も教員も落ち着かない状態が続いているように思います。私は高校の教員なので、大学入試の大きな改革が目前に迫り、教育が目指すところを捉えつつ、校内の具体的なプログラムをどのように構築していくべきか、情報収集に努めながら歩みを進めているところです。

さて、そのような中でICT教育の普及も進んでいます。教師側はITネイティブの子供たちとは異なり、その扱いに苦戦することも度々です。そのような状況がありながらも、私が総合的な学習の時間「メンタルサポート」で紹介して使用を勧めているのが、認知行動療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」です。コラム法の説明をした後、サイトを紹介するようにしています。

 認知行動療法は、個人であったり集団であったり、幾つかの形式でおこなわれます。パソコンやスマートフォンを使った自己学習もその形式の一つです。

私が生徒にインストールすることを呼びかけるのは無料のアプリです。有料の部分に登録をすればできることも増えるですが、授業での呼びかけは躊躇われる部分もあるので、「こころが晴れるコラム」(7コラム)、「かんたんコラム」(3コラム)の使用を促します。

授業での紹介の仕方としては、私が登録しているパソコン版をスクリーンに映して、実際に入力をして見せます。詳しい内容は右図、または桐生第一高校の2017年5月24日「ヨミドクター」ご覧ください。

また、授業に入る前に受講生徒全員から事前アンケートを取ります。スマートフォンを全員が持っているかどうかを確認して、授業での扱い方を決めます。アプリの紹介を始めて2年目になりますが、2回とも全員がスマートフォンを持っていたので、授業でも使用を推奨していきました。

桐生第一高校のように、使用に際して学校の体制が整っていればよいのですが、そのような状況は少ないと思います。授業で扱えない場合、可能であればインストールだけでも一緒に行うのが実践につながる大事な部分のように思います。私の勤務校は、授業でのスマートフォンの使用が認められていません。そのため、次の授業でインストールをしたか、使用したかのアンケートを取ります。また、使用した生徒の感想を紹介したりして、再度インストールを促します。ゲームやSNSには積極的な子供たちですが、このような使用目的には必ずしも積極的ではありません。というか、面倒くさいのです。それでも何名かはその効果を即実感し、積極的に何度も使用するようになります。これまでも、受験生や運動部の生徒が上手く活用していった例を見てきました。そうした活用例を授業中に随時発信し、繰り返し呼びかけていきます。

これまでの使用例をいくつか紹介します。

■Aさん
大学受験を前に不安が高く、常にいろいろな先生のところに行っては不安を訴えていました。まだ受験までに半年以上あったのですが、どうも自分だけで不安を抱えていることに耐えられないようです。

アプリを紹介したところ、すぐにコラムへの入力を始めました。Aさんは有料の登録をし、入力したものが後からも見られるようにしたようです。その後、職員室前を行ったり来たりする姿が減ってきました。Aさんに尋ねてみると、自分は、同じような場面で同じようなことを考えて、いつも不安を繰り返していたのだということでした。でも、一度アプリで適応的思考を導き出し、それを度々見返すようになったら自分で落ち着くことができるようになってきたということでした。そして、日常的に入力を続けるようになったと言います。「何回くらい使った?」と尋ねたところ、「数えきれない。たくさん!」と答えてくれました。Aさんは今、看護師を目指して勉強しています。このアプリによる自己学習は、Aさんが看護師になってからも必ず役に立つものと確信しています。

■B君
B君は部活の練習や試合の後、バスや電車の中で入力をするそうです。スマートフォンを開くとアプリが目に入るので使う気持ちになるのだと言っていました。紙ではなく、アプリの活用の利点はこのようなところにあると思います。いつも手元にあるので、日常的に入力ができるのです。また、導き出した適応的思考を、スマートフォンのメモにコピーをして度々見返しているという同じ部活の生徒もいました。

■Cさん
いつもは友達に話すことで気持ちを落ち着けていくようです。でも、部活のことは、部活の友達に話すとどこかから漏れてしまうかもしれないし、部活以外の人に話しても自分の状況はわかってもらえないと思って一人で抱えることも少なくなかったようです。
そうした問題をアプリに入力するようになりました。すると、問題を一度自分の横に置くことができて、そしてまた明日の練習に行こうという気持ちになることができるのだと言っていました。

ICTは学校教育の心の問題とどのように結びついていくでしょうか。LINEでの悩み相談が始まりましたが、心の問題を扱う際、ICTはSNSという他者とつながるツールとして活用されるというのが教育現場での現在地点なのかもしれません。でも将来的には、認知行動療法のコンピュータによる自己学習の方法は、「こころのスキルアップ教育」の一つとして学校でも扱えるものだと思います。道徳での活用も考えられるのではないでしょうか。また、これは「相談する」という不安や悩みへの対処方法以外の、新たな提案でもあると考えます。ただし、そこには人が関わる部分が必要です。子供たちに任せっきりにするのではなく、インストールを一斉に行ったり、一緒に取り組んだり、ふりかえりをしたり、そういう時間を持つことで継続されるものだと思います。

今、企業研修でもサイトと面接を併用したプログラムが開発されています。同じように学校教育でもタブレットやパソコン、スマートフォンを活用したプログラムが整えられていくことを期待したいと思います。

専修大学付属高等学校 平澤千秋

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