【連載】リレーエッセイ2

ひと月に1本ずつ、東京教育カウンセラー協会理事が、エッセイを執筆して掲載します。


特別支援教育と構成的グループエンカウンター

                   東京教育カウンセラー協会副代表 齋藤珠恵

本協会の教育カウンセラーの資格を取るにあたっては、構成的グループエンカウンター(SGE)の体験が必修となっています。SGEは集団の状態に合わせて、グループサイズやエクササイズ、ルールや時間設定などを構成することで、心と心がふれあう交流を意図的に作り出す活動です。このSGEの手法、実は特別支援を必要とする子どもたちにはわかりやすく、活用しやすいものなのです。

特別支援教育を必要とする児童生徒の中には「暗黙の了解」がわからないため、みんなが当然わかっている当たり前のルールを守ることができず、集団活動を妨害してしまうケースもあります。また、幼少期から自分が周囲と馴染めないことに気がついていたり、みんなと同じことができずに悩んだりすることで、自己否定をしたり、周囲が悪いと誤学習をしたりしてしまう事もあります。

私が勤務する特別支援教室(通級)に通うAさんもそんなお子さんでした。Aさんは相手の言葉の意図の理解をしたり、周りの様子を見てから行動したりすることが苦手なため、注意を受けたり話を聞いて貰えなかったりする経験が多く、自信をなくしていました。小集団の活動では、メンバーから「(Aさんとペアだと)負けるじゃん」と言われたり、説明したことが実行できなかったAさんを責める空気があったりしても、じっとそれに耐えている様子がありました。

そこで、Aさんが自己理解を深め、自分の特性や「I’m OK. You’re OK.」を感じられるような活動を多く取り入れた個別学習を行いました。「私の四面鏡」や「二者択一」といった、自己を多面的に捉えたり価値観を自覚できる活動を多く行うと同時に、小集団学習で起きた「嫌だった体験」を話しながら、アサーションやストレスマネジメントのトレーニングを行いました。

一方、小集団では、Aさんに対する否定的な行動をとるメンバーがいたため、児童相互の関係づくりを行うことから始めました。Aさんは新しい活動は不安が大きいため、個別学習でやった内容と似ているエクササイズを取り入れました。「二人のハートはピッタンコ」では「二者択一」のやり方でメンバー全員で行い、自他の価値観の違いを感じたり、「星いくつ」のようなお互いの良さを認め合うエクササイズを取り入れ、短くたくさん触れ合う機会を多く作ることで、集団としてのエネルギーも高まり、次第にAさんを責めるような言動は減っていきました。

SGEではエクササイズの前に必ずルールと目的を示し、デモンストレーションをします。また、質問の有無の確認や参加しない権利も認められているため、通級指導に通う子どもたちも、安心して活動に参加できるのです。
通常の学級で行われる特別支援教育の考え方の一つに、ユニバーサルデザイン授業(UD授業)があります。UD授業の基本に、時間や場面等を「構造化する」というものがありますが、まさにSGEの「構成的」と一致しています。活動内容も、自己の盲点に気がつくことや、他者との違いに気がつくこと、感情を伴った体験から学ぶことで、より学びが深まること等は、特別支援教育で最も重要視される側面です。

集団づくりというと、どうしても「全体と支援の必要な子」という見立てになりがちです。しかしながら、「木(個人)を見て森(全体)も見る」ということが本当は大切なのです。時にはうまくいかないこともありますが、そういう時こそがチャンスです。    そしてエンカウンターは決して強制されるものではないこと、という考えも重要なポイントです。今回は、通級指導(特別支援教室)での活用例でしたが、通常の学級でのインクルーシブな学級づくりにこそ、構成的グループエンカウンターは活用できるものなのです。

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