梅雨入りの知らせと共に、夏休みの計画が耳に入ってくるようになりました。教室の子どもたちの様子はいかがでしょうか。何とか6月を乗り切ってほしいと感じている先生方も多いのではないでしょうか。
少し前のことになりますが、欠席が増えてきた女子生徒がいました。体調に問題はないようでしたが、担任の先生が理由を尋ねても、その話題になると口を閉ざしてしまうのでした。私は授業を通じて関わりがあったので、日常会話を重ねながら、ある時、一つの提案をしてみました。それは「日常活動記録表」(左図)を付けてみないかという提案でした。毎日、気分が動いた時に、その行動と気分を記録していく表です。気分の記録はお天気マークだったり、数値化したり、書きやすい形でアレンジしてもらいます。
1週間後、彼女は1時間刻みの表に、気分が「とてもよかった」に◎、「よかった」は〇、「つらかった」に△を付けて、見せに来てくれました。そこでは立ち話でしたが、◎の時間帯について話をしながら、そこからどんな工夫ができるかを聞いていきました。するとその話の途中で、彼女は自分から△の時間帯について話を始めたのです。「お父さんが帰ってくるとね….。」と。そのまま少し話を聞いた後、次の週にもう一度、記入した用紙を持ってきてもらうことにしました。今回の記録を見て、行動を工夫した結果どうだったかを聞かせてほしいと話しました。そして、私がその時に説明したことは、「私たちの一日の活動量は決まっているから、気分がよくなる行動を増やすと、気分がつらくなる行動が減ってくるんだよ。」ということでした。
それから彼女は、気分がすぐれない登校時、外の景色を眺めながら歩くようにしたり、放課後はすぐに帰らずに教室で少し勉強してから帰るようにしたり、自分の行動を変えてみて、その結果を記録して報告に来てくれるようになりました。
思春期の子どもたちは、自分を語るのを得意としない子も多いです。そんなとき、行動から話をしていくことで、こころを閉ざすことなく対話が続き、比較的足早に前に進んでいけることもあるようです。
また、個別の対応だけでなく、「メンタルサポート」の授業でも、私は「日常活動記録表」を宿題にします。時期は夏休み前です。「日常活動記録表」を書くことで、自分の健康行動(気分がよくなる行動)のデータ収集を試みてもらうのです。そしてフィードバックでは、行動と気分が結びついていることに目を向けるように促していきます。
こうした「行動活性化」のワークを夏休み前に行う理由は、子どもたちにとって夏休みは、必ずしもバラ色の日々とは言えないからです。長時間にわたる部活動の練習、大会、合宿。塾の夏期講習、宿題。家庭ではスマホでゲーム、SNSでのやりとり、家族との関わり。セルフコントロールが難しい状況になりがちです。9月に子どもの自殺が多いという報道も気にかかる部分でした。
夏休み、生徒の一人は昼夜逆転して鬱々とした日々を送り、何とかしたいという気持ちになった時、授業を思い出して、自らの健康行動、図書館へ行くという行動を意識的に取り入れ、生活を改善していったと言います。
教師はどうしても「内から外」、生徒の気持ちから変えていこうと考えがちです。でも、「外から内」。行動することで、やってよかったという行動が生まれ、もう一度やってみようという気持ちにつながるということもあるのです。認知行動療法の「行動活性化」、ちょっとヒントになるかもしれません。
★お知らせ★
この連載を陰ながら支えてくださっている、大野裕先生の講演会が開催されます。
「子どもたちのこころと夢を育てる方法」
日時:平成30年8月19日(日) 14時から15時30分
会場:国立オリンピック記念青少年センター
お申し込みは…少しお待ちください。(主催:認知行動療法教育研究会)事務局平澤